生活感があってかっこいい家①

昔、制作会社でコピーライターをしていた頃は、主に家具や照明器具のカタログや情報誌をつくっていました。商品撮影をするときは、スタジオでセットを組むパターンのほかに、素敵な住宅を借りてロケをすることもよくありました。

まだフィルムカメラの時代です。しかも4×5インチの大判フィルムを使い、念入りにライティングをして、1カットに何時間もかけて撮っていました。その頃流行っていたのが家具調コタツだったのですが、天板がハレーションを起こさないようにライトを細かく調整し、布団に1本のしわもないように中に詰め物をして撮っていたものです。

そんなに手間ひまかけて撮った写真でしたが、私はいつも不満でした。好きなインテリア雑誌の写真と見比べては、「なんでこんな風に自然な感じに撮れないんだろう」と思っていました。下っ端社員のくせに、ベテランカメラマンさんに「こんな風に撮ってほしい」と雑誌を見せて注文を付けるという失礼なことをしたり。。。長年商品写真を撮り続けてきたカメラマンさんにとっては、商品を美しく正しい色に撮ることが何より大切だっただろうに、「天板が少々ハレてもいいから」なんて生理的に受け付けないような要望だったでしょう。それでも「自然な感じに見えるように」と一生懸命工夫してくれました。それなのに写真は私の希望に近づかないんです。

フリーになって雑誌の取材を始めたとき、驚いたのはその撮影の仕方でした。雑誌の仕事をするカメラマンさんは35ミリのロールのフィルムで(今はもちろんデジタルですけど)、2~3時間で何十カットもバシバシ撮ります。余計なものを除けたり、ある程度片付けたりはしますが、それ以上に無理やり手を加えたりしません。ライティングも必要な箇所に補う程度で、それよりも自然光を生かすことを大切にします。制作会社時代に手を加え、工夫を重ねて近づけようとしていた雑誌の写真が、むしろ手を加えないことで生まれていたんだと、目からウロコでした。

思えば希望の写真にならないとじたばたしていた制作会社時代から、「生活感があってかっこいい」というのは私のテーマだったのです。

雑誌の仕事を始めてからは、「どこまで片付けるか」に頭を悩ませます。インテリアや家づくりの雑誌ですから、あまりゴチャっと生活感を出したくない。写真に撮ると実際より雑多に見えがちだから、どうしてもある程度は片づけます。でも片付けすぎるとリアルな感じがなくなってしまう。頃合いが結構難しい。「これ、はずします?置いときます?」とカメラマンさんと相談しながら引いたり残したりすることもよくあります。

本当はその人が住んでいる、そのままで撮ってかっこいいのが理想です。実際、ほとんどモノを動かさなくていいお宅もたまにあるし、そういうお宅が増えています。そんなお宅のことを次回は書いてみたいと思います。

soho MUGCUP

住宅ライターが綴る、家のこと、暮らしのこと、書くこと、仕事のこと。。。